箱根塔ノ沢温泉と早川渓谷とその歴史

 

塔ノ沢

塔ノ沢は箱根七湯の俗称では「阿弥陀の湯」と言われています。
箱根湯本から近いことから早川沿いを歩き宿へ向かう人の姿も見れられます。

箱根の中では木々の色づきが鮮やかな地域であり、早川の渓流が情緒のある温泉街の風情を残しています。

 

特徴

塔ノ沢

ここは箱根の中でも早川の近い温泉であり、強羅や仙石原のような別荘地とは景色が違います。
紅葉の時期には箱根の中でも色づいた木々を眺められる地域で、晩秋から初冬に宿泊されると良い地域です。

 

箱根塔ノ沢温泉の元湯還翠楼

国道1号線沿いにあり、自動車でもアクセスしやすい温泉地です。
箱根登山鉄道の塔ノ沢駅からは少し遠く離れています。

 

歴史

塔ノ沢の温泉には深い歴史があります。

『新編相模国風土記稿』によれば、4代将軍の家綱の時代に「厳有院の御時延宝中、この温湯を汲みて奉るべき旨、領主美濃守正則に命あり」とあり、この塔ノ沢から江戸への献上湯(お汲み湯)があったことがわかります。

のちに『永代日記』によれば後の元禄時代の1699年にもここ塔ノ沢からお汲み湯が献上されています。
この時は5代将軍の綱吉の時代でした。

 

 

また江戸時代に書かれた浅井了意の『東海道名所記』には塔ノ沢温泉の記述があります。

湯本の橋より。右の方川辺をゆけば、半里あまりに、湯の沢といふ在所あり。温泉(いでゆ)あり、人おほくあつまれり、

この湯の沢が現在の塔ノ沢温泉のことで、江戸時代に書かれたこの『東海道名所記』に記載があるということは、すでに当時から賑わいがあったことを窺い知ることができます。

 

箱根七湯 塔ノ沢の浮世絵

出所:名所絵

また後の世では江戸時代中期の1852年(嘉永5年)に出版された歌川広重の『箱根七湯図会』でこの塔ノ沢について描かれています。
この絵には早川とそれにかかる橋梁が見られ、当時の姿を知る貴重な情報です。

 

塔ノ沢を流れる早川と歴史的な記述

塔ノ沢の早川

この流れの早い川は早川です。
この早川は芦ノ湖から仙石原、木賀、宮の下、塔ノ沢を通り、湯本を流れ、最後には小田原の早川駅付近の相模湾へと注がれます。

この早川は鎌倉時代の紀行文である阿仏尼の『十六夜日記』にもその流れの激しさが書かれています。

”からうじてこえはてたれば、麓にはやかはといふ川あり。まことにいと早し。
木のおほく流るるを、いかにと問へば、あまのもしほ木を浦へ出ださむとて流すなりといふ。
あづま路の 湯坂をこえて みわたせば しほ木ながるる はや河のみず 『十六夜日記』”

箱根芦ノ湖から湯坂路を通ってこの塔ノ沢付近に着いた阿仏尼はこの早川の流れを見て「大変早い流れ(いと早し)」と書き残しています。
ちょうどこの画像の塔ノ沢と湯本の間に湯坂路の推定古道があり、この付近から眺めたのかもしれません。

湯坂路入口

そして「木のおほく流るるを、いかにと問へば、あまのもしほ木を浦へ出ださむとて流すなりといふ」とあるように、海人が藻鹽木(藻についた海水を煮るためのたく木)を相模湾へと流す作業が当時の鎌倉時代に行なわれていました。

当時は海人(あま)といって、貝などを採取する・藻鹽を焼く人がいました。
「藻鹽を焼く」とはアカモクなどの海藻を焼いたり、煮詰めることで塩を取るということです。

この「藻鹽を焼く」ことは、日本では古来から見られており、万葉集にも

名寸隅なきすみの 船瀬ふなせゆ見ゆる 淡路島 松帆の浦に 朝凪に 玉藻刈りつつ 夕凪に 藻塩焼きつつ
海未通女あまをとめ ありとは聞けど 見に行かむ 由のなければ『万葉集

と現在の淡路島の北部(淡路島海峡大橋付近)で行なわれていた記録があります。
この塔ノ沢の早川では塩を取るための藻鹽木が流されており、浦である河口(早川駅付近)では塩を取る作業が行なわれていたのでしょう。

 

そして「あづま路の 湯坂をこえて みわたせば しほ木ながるる 早川のみず」と歌を残しています。

 

湯治

塔ノ沢は湯治客でも賑わう温泉街でした。
塔ノ沢温泉の効能は当時の『七湯の枝折』によれば

  • 中風
  • 脚気
  • 頭痛
  • 打身
  • 痔瘻
  • 腎虚
  • 肺結核
  • めまい
  • 淋病
  • こしけ
  • 鬱症
  • 歯痛
  • 子なき婦人入浴すれば懐胎ス

とあります。
面白い点は腎虚(腎陰虚)で、温泉は体が温まるので腎が弱い人は一般的に注意すべきですが、塔ノ沢では効能として紹介されている点です。

また「子なき婦人入浴すれば懐胎ス」と子宝の湯としての効能があることも特筆すべきだといえます。
伊豆には中伊豆の「吉奈温泉」も子宝の湯として徳川家康のお万の方が入浴して懐妊していますが、東京から近くの箱根塔ノ沢にもこのような効能があることは興味深い点です。

 

さらに言えば、腎虚と妊娠には関連があります。
中医学や漢方では腎は人の生命力や下半身、生殖に影響しています。

腎が弱い人は痩せている体型をしていますし、腎が尽きるとき人が亡くなるのであり、病気になり死期が近づくと人がガリガリに痩せてしまうのも腎が尽きるからです。
腎が弱まると体の熱を冷ませないので熱が上(熱は上に上がる性質あり)に行ってしまい、それがめまいやのぼせに繋がるとの見方があります。
更年期障害がこの例に当てはまると思います。

この腎虚と懐妊の効能は偶然ではなく、この塔ノ沢温泉は『七湯の枝折』にあるように、腎に対して効能があるのだろうと考えます。

 

塔ノ沢温泉の旅館

塔ノ沢には風情のある旅館が多くあります。

元湯 環翠楼

箱根塔ノ沢温泉の元湯還翠楼

この画像は「元湯 環翠楼」です。
明治時代には「伊藤博文」や「夏目漱石」「水戸光圀」「孫文」「東郷平八郎」「篤姫」が宿泊した歴史が残ります。

早川の渓流沿いにあり、昔の風情が残った日本らしい建築が魅力です。
料金はやや高めですが、塔ノ沢では是非宿泊したい箱根の高級旅館です。

 

一の湯

塔ノ沢

塔ノ沢の国道沿いにある温泉旅館です。
向かいには元湯 環翠楼があります。

 

箱根塔ノ沢温泉

早川沿いに佇んでおり、風情があります。
この付近の紅葉はキレイです。

 

福住楼

箱根塔ノ沢温泉の福住楼

塔ノ沢の入口にある明治23年に創業した旅館です。
多くの文化人が宿泊したことでも知られています。

 

 

 

箱根
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